HAPON人インタビュー:農業=食べて行けない?――マーケティング手法で農業を変革する ネイチャーシンフォニー片平晋作(2)

農業コンサルタント・片平晋作さんへのインタビュー、前篇では、福島原発事故によってそれまでの事業の総てを失うことになってしまった片平さんが、マーケティングの考え方を駆使して復活ののろしを上げるまでをお聞きしました。

その片平さんは、現在、農業コンサルタントとして活動。儲けの少ない斜陽産業と分類される農業の世界で、きちんと利益を出すには何をすれば良いのか?その戦略立案をコンサルティングしています。そこに散りばめられたアイディアは、農業以外の分野でもすぐに応用出来そうです。






HAPON人インタビュー:ネイチャー・シンフォニー(2)
『マーケティング手法で農業を変革する』

HAPON(以下、H):片平さんの現在のお仕事は、ジェラート店の経営と農業コンサルティング、この2領域ということになりますか?

片平:実は、店の方は、現在休業中なんです。品川プリンスホテルが大規模な改修をすることになって、一旦閉めざるを得なくなりました。常連さんもついて売上好調だったので、本当に残念だったのですが‥。

H:そうだったんですか。やむを得ない事情とは言え、それは残念ですね。それに、お仕事もなくなってしまった訳で、途方に暮れたのではないですか?

片平:ところが、思いがけず北海道から声がかかりまして、それが現在の“ネイチャー・シンフォニー”の事業に発展して行ったんですよ。

H:コンサルタントのお話が来たということでしょうか?

片平:はい。或る起業家会合で北海道のメガファームの牧場主と知り合いまして、ちょうど同世代の方だったんですね。意気投合して語り合っている中で、「一緒にジェラート事業をやろう」と話がまとまって行きました。

H:ちょっと想像がつかないんですが、メガファームと言うとどのくらいの規模なんでしょうか?

片平:乳牛を500頭飼育していますから、日本でも有数の規模ですね。ただ、オーナーは、人口減の日本で、このまま牛乳を売っているだけではいずれ立ち行かなくなるという危機感を持っていました。何か他の事業を開発しなければならないということで、ジェラートがいいんじゃないか、と。


H:そうなんですか。でも、どうしてなんでしょう?

片平:経営計画が甘い。これに尽きるんです。ジェラート屋が成功するために必要な条件は、一に立地、二に立地なんですね。ちょっと考えれば分かることなんですが、冬にジェラートって、あまり食べたいとは思わないですよね?

H:そうですね。寒い時に冷たいものはちょっと…

片平:ですよね。だから、ジェラート店の売り上げは、冬にはがくっと落ちてしまいます。これはどんな人気店でも避けられない宿命です。ただ、例えば暖房が利いている駅ビルなんかに出店していれば、致命的なまでの落ち込みは避けられるんです。
これって、誰にでも分かる当たり前の話のはずなのですが、何故か皆さん、普通の商店街なんかに出店して、冬を乗り切れずにつぶれてしまうんですよ。

H:なるほど。確かに読みが甘いと言われても仕方がないですね。

片平:はい。前回のインタビューで、地方の農家は「いいものさえ作れば売れる」と素朴に信じている人たちだとお話ししましたが、ジェラート業界も同じだと思います。でもだからこそ、僕にやれることがあるんじゃないかな、と。

H:なるほど。福島に戻られた時と同じですね。片平さんの持っているマーケティングの考え方、「どこに、どう売るか」という戦略の立て方を、農業なりジェラートなりに導入する…つまり、それが農業コンサルティングというお仕事になるかと思いますが。

片平:はい。ジェラートも、それから農業も、今の日本社会では残念ながら衰退産業に分類されてしまいますよね。でも、それは戦略の立て方が間違っているからだと思っています。やり方次第で、必ず利益を出せると確信していますよ。

H:頼もしいですね!

片平:そうやって戦略を考えた時に――北海道のジェラートの話に戻りますが、逆転の発想で、「冬でも寒くない所で売ればいいじゃないか」という戦略に行き着いたんです。具体的には、アジア。タイ、ベトナム、台湾…たくさん暑い国がありますよね。

H:なるほど!

片平:…という訳で、先日、台湾へテストマーケティングに行って来ました。デパートで開催された日本物産展に出店して、「ジェラート」という商品が台湾の人に受けるのかどうか、それから、「北海道の美味しい牛乳で作った」というコンセプトが受けるかどうか、この2点を見るための出店でした。

H:結果はいかがでしたか?

片平:大好評でした!更に今回の出店をきっかけに、アジア地域で広く展開する或るフランチャイズ企業から「パートナーシップを組まないか」という提案もあり、提携の可能性を探っているところです。

H:素晴らしい展開ですね!お話をうかがっていて思ったのですが、片平さんは“テストマーケティング”をとても重視していらっしゃいませんか?以前、TBSの復興マーケットに出店された時も、「東京から声がかかった!」などと浮かれることなく、冷静に、出店自体をテストマーケとしてとらえていたかと思うんです。

片平:はい。僕は、テストマーケティングを行うことは、絶対だと思っています。いきなり開業するのは、初期投資が大き過ぎて危険ですよ。テストマーケの反応を見て、やる・やらないを決める。ここはかなり慎重に進めるべきだという信念を持っていますね。

H:勢いで手を出さないことも大切なんですね。そんな中、まずは反応の良かった台湾での出店ということになりますが、これから他のアジア地域に出て行くことも考えていらっしゃいますか?

片平:はい。その都度テストマーケはしますが、牧場主と共に「積極的に出て行こう」というビジョンを持っています。東南アジアは広大で、しかも親日的な国がほとんどですから、大きな可能性があると思っています。

それから、実はアラブ諸国も視野に入れているんですよ。こちらも親日的で、しかも暑い(笑)。旅行客として来日する方もどんどん増えていますしね。「食器消毒にアルコール分を含む洗剤を使ってはいけない」といった宗教上の規定、ハラールがありますが、既に勉強を始めて、ハラールをクリアした製造マニュアルが完成しつつあるんですよ。

H:少子化問題を抱えるこれからの日本ですが、お話を聞いていると、たくさんの可能性にワクワクして来ますね。片平さんご自身としては、酪農やジェラート、或いは農業全般にわたるコンサルティングを展開して行く予定ですか?

片平:そうですね。農水省からの依頼が入ったりして、現在、個別の農産物のコンサルティング業務が複数動いています。今後もどんどん展開したいと思っていますが、その他に、JAなど、農業団体へのマーケティング研修の依頼も入って来ています。これを本格的に事業化して行きたいと考えていますね。


H:具体的にはどういう内容になるのでしょうか?

片平:この事業に取り組むベースには、農業団体の方々の考え方があまりにも遅れているので、何とかしたいという気持ちがあるんです。国や県から補助金を取って来て、農家に野菜なり果物を作ってもらう。でも、全く売れない。そういう失敗例を山ほど見ているんですよね。何しろ皆さん、SEOも分かっていないし、パッケージもダメだし…結局補助金を無駄遣いしたとしか言いようがない例が、ごまんとあるんですよ。

H:そうなんですか。何だか暗澹たる気持ちになってしまいますね。

片平:一方で、名だたる大企業が「これからは農業だ!」と名乗りを上げるんですが、こちらはこちらで農業そのもののことを分かっていないから、失敗例が山と転がっていて。

H:なるほど…でも、だからこそ、農業コンサルタントにとっては広大なフロンティアが広がっているという訳ですね。

片平:はい。ただ、農業コンサルタントというのは、「どう売るか」というマーケティングが分かっているだけではダメで、農業や農家のことを良く知っていなければならない。その点、僕自身が田舎の農家出身だから分かることがあって、実際に個々のプロジェクトに取り組む時に強みになると思っています。例えば、田舎の農家は、とにかく保守的なんですよね。なかなか新しいことには手を出したがらないので、協力してもらうこと自体が大変。だけど彼らを動かすコツがあるんですよ。

H:すごく興味があります!どうするんですか?

片平:「何か美味しい話がありそうだぞ」と思わせるんです。例えば、僕が福島に帰った時がそうだったんですが、最初から大きなプロジェクトにすることを考えないで、まずは一軒でも、一つでも、話の通じる農家の商品を扱う。それで“売り上げ”という実績を出してしまうんですよ。
そうすると、「どうも向かいの田中さんちのにんじんが、片平がやってるネットの売り方で売れているらしい」となるんです。そうなれば、「自分も入りたいんだけど…」と、向こうから言って来るようになる。みんな美味しい話には乗りたいんですよ。

H:なるほど…!

片平:それから、売っていく上で大切なことは、自分を圧倒的に権威づけしてしまうことだと思っています。例えば、前回お話ししましたが、僕が品川プリンスに出店した時、ジェラートの本場イタリアの大会に出て、入賞しましたよね。ああいうことです。
インチキの権威づけではダメですが、何かしら、自分のグレードを高める方法を探して、努力するべきだと思います。僕だって、大会前、「抹茶味で行こう」「いや、抹茶はあまりにもイタリア人になじみがなさ過ぎて、ダメだろう。柚子味で勝負だ」と、戦略的に試作を重ねて、入賞をもぎ取ったんです。SEOとか立地とかいった基本的なマーケティング戦略と共に、こういった努力が必要だと思いますね。


2012年、イタリア・リミニで行われた国際ジェラート大会の授賞式

H:なるほど。こうして311をきっかけに再び東京で活動することになって、現在手掛ける領域もどんどん広がっている訳ですが、今後も拠点は東京に置こうと考えていますか?

片平:しばらくはそうなるでしょうね。だけど、いずれは都心ではなく、海や山が感じられる地域に移りたいと思っています。全国の農家や農業団体をコンサルティングする拠点が、東京でなければならないという必然性はないんですよね。

H:なるほど。本日は長時間のインタビュー、ありがとうございました。311被災というとてつもない逆境からしぶとく立ち上がられて、次々と新しい事業に乗り出されている姿、勇気づけられる方が多いと思います。

片平:ありがとうございました。



片平さんの扱う領域は農産物ですが、そのマーケティングの考え方は、他分野にもどんどん応用出来る!そう、確信するインタビューでした。もちろん、311被災という最大級の逆境をマーケティングを武器に切り拓いて行った片平さんの、その生きる姿勢にも、私たちが学ぶことは多そうです。

(取材:西端真矢、HAPON 文:西端真矢)


HAPON人インタビュー:福島3.11 総てを失った酪農家が東京で復活するまで――ネイチャー・シンフォニー 片平晋作(1)

これまでのHAPON人インタビュー:
気鋭のプロデューサーズ・カンパニー、Epiphany Works
コンサルティング・ファーム、USPジャパン

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