HAPON人インタビュー:訪日外国人市場1兆円をめざして――USPジャパン(2)

HAPONで働く人を紹介する、「HAPON人インタビュー」。
前回に引き続き、今回もコンサルティング・ファーム“USPジャパン”代表、新津研一さんにお話をうかがいます。
今年、9月3日。“ショッピング”を軸に外国人旅行客誘致を推進する一般社団法人、“ジャパンショッピングツーリズム協会(JSTO)”の設立が発表されました。当日のNHKニュースやワールドビジネスサテライトでも採り上げられたので、目にされた方も多いのではないかと思いますが‥実は、この協会、HAPONに拠点を構える新津研一さんが事務局長を務めているんです!


そこで、今回の「HAPON人インタビュー」では、新津さんのJSTOでの活動についてお話を伺いたいと思います。招致の是非はともかくとして、7年後、東京でオリンピックが開催されることは決定事項。“外国人旅行客をどう迎えるか”は、日本社会の大きな関心事になりつつあります。まさに新津さんこそ、“おもてなし”が話題になるずっと前から“外国人のおもてなし”を考えて来た人。その戦略や、裏側にあるこころについて伺ってみたいと思います!





HAPON人インタビュー:USPジャパン(2)『訪日外国人市場1兆円をめざして』

HAPON(以下、H):JSTO(ジャパンショッピングツーリズム協会)の発足、おめでとうございます。

新津:ありがとうございます。

H:前回の「HAPON人インタビュー」では、新津さんの三越伊勢丹時代のお仕事と、そして、退職して設立されたコンサルティングファーム・USPジャパンのお仕事について伺いました。今回は、独立後の活動のもう一つの軸である、この“訪日外国人誘致”のお仕事について伺いたいと思います。
そもそも、百貨店マンだった新津さんが、こう言っては失礼ですが、畑違いの事業に取り組まれたのは何故なのでしょうか?

新津:根底には、僕自身の個人的な思いがあります。もともと僕は旅に出るのが好きで、百貨店時代も休みになると海外を旅して回っていたんですね。そんな中でだんだんと、日本人の心のどこかに、外国人に対するバリアがあるんじゃないかと思うようになったんです。

H:どんな時にそう思われたのでしょう?

新津:僕は旅先で市場を回るのが好きなんですが、タイでも韓国でも中国でもどこでも、店員さんが僕を見て、「ん?こいつ日本人かな?」と思うと、とりあえず日本語で話しかけて来るんですよね。「こんにちは」とか「ありがとう」とか、一言でも、間違っていても、とにかく日本語で話しかけて来る。
これを日本に当てはめてみると、今、日本でも外国人観光客がかなり増えていますが、目の前の外国人のお客さんに対して、じゃあ、中国語や英語やタイ語でとりあえず話しかけてみよう!と思う店員さんがどれだけいるかと言うと‥

H:確かにほとんどいないかも知れませんね。「英語が出来ないから」「中国語が出来ないから」と、黙り込んでいることが多いような気がします。

新津:そうですよね。アジアの人はそんなこと気にせずにどんどん話しかけて来るのに‥。
小さなことですが、こんなことからも、まだまだ日本人の心の中では鎖国が続いているような一面があると分かるし、僕はそれが面白くないなと思ったんです。日本人の心の扉を開きたいな、と。“多様性”という考え方が僕は好きで、文化や習慣、考え方の違う人同士が、互いの違いを認め合って共存出来る社会。それがいい社会だと思うんです。
それで、当時まだ三越伊勢丹に勤めていましたから、自分の仕事の中で何か出来ないか、と、外国人のお客様へ向けた新プロジェクトを提案したりしているうちに、政府が主催する外国人観光客誘致の委員会に三越伊勢丹が参画することになりまして、僕がその担当者に指名されたんです。

H:もしかして、それが今のJSTOの活動につながって行きますか?

新津:そうなんです。退職後も個人として引き続き参加してほしいと依頼を受けまして、その委員会からJSTOのアイデアが生まれ、発展して行って‥

H:なるほど。そもそもはごく個人的な思いからスタートしたことが、だんだんと大きなお仕事につながって行く、というのは本当に素晴らしいことですね。とは言うものの、日本人の心の中のバリアを崩すのは、一朝一夕には行かないような気もしますが、どうでしょうか?

新津:確かに町の商店主さんとお話をしていると、外国人のお客さんを迎えることを何か大変なこと、或いはすごく面倒くさいことのように思っている方が多いと感じますね。
でも、よくよく考えてみれば、ショッピングに入って来るお客さんを迎えるために何かすごくたくさんの会話をする必要って、全くないんですよね。お客さんが求めている情報は、値段。それから、トイレの場所くらい。値段は値札を付けておけばいいし、トイレも指を指せば分かります。全然大変なことじゃないんですよ‥というお話をすると、皆さん、「そう言えばそうだね」と納得されます。

H:やはり自らバリアを作ってしまっているところがあるのかも知れませんね。

新津:はい。旅館のご主人も「外国人のお客さんは無理」とおっしゃる方が多いんですが、そういう旅館には、外国人留学生のグループに「日本語禁止」という取り決めで模擬宿泊してもらったりします。そうすると、「意外と何とかなりましたわ」と皆さんおっしゃいます。やはり、心の中のバリアが原因なんです。


訪日外国人向けに立ち上げられたJapan Shopping FestivalのWEBサイト


H:なるほど。それにしても、外国人旅行客誘致と言うと、これまでは名所観光、或いはクールジャパンをアピールすることが多かったと思うんですね。それ対してJSTOが、「日本でのお買い物ってこんなに楽しいですよ!」と、ショッピングにフォーカスしているのは何故なのでしょう?

新津:これに関しては僕から逆質問したいのですが、外国人観光客に日本に来た目的をアンケートしてみると、1位は何になると思いますか?

H:やはり名所観光でしょうか。

新津:実は、食なんですよ。日本料理は世界中の方々に本当に人気があります。そして2位が、買い物。3位が街歩き。4位でやっと観光、という結果になるんです。
10年前、小泉首相の音頭取りで“観光立国”を目指そうという気運が高まりましたが、本気でそこを目指すなら、2位につけているショッピング。ここを、もっともっと外国の方が気楽に、楽しくショッピング出来るように、迎える我々の側の環境を整えなければいけないんじゃないか。そんなことが見えて来たんですね。

H:そこでJSTOの構想が生まれた、と。

新津:そうなんです。

H:現在、新津さんの古巣の三越伊勢丹をはじめ、JCB、JTB、NTTデータ、JALなど、そうそうたる企業がJSTOに参加されていて、相当な資金が集まっているのではないかと思いますが、今後具体的にはどのような活動をされて行く予定ですか?

新津:今年からスタートして、毎年、夏と冬に“ジャパンショッピングフェスティバル”というキャンペーンを組み、日本のショッピング情報を大々的に発信して行きます。ちょうどその頃はバーゲンや福袋など、日本人でも買い物が一番楽しい時期ですよね。この楽しさをどんどんアピールして行きたい。初年度の今年でも、東京・大阪圏の100店以上が参加するんですよ。

H:なるほど。これからは、外国の方とバーゲン品の取り合いになるかも知れませんね。

新津:はい。現在、外国人観光客が日本に落とす年間金額は、3400億円ですが、これをオリンピック前までに3~4倍にすることを目指しています。そうなると1兆円の市場が生まれる訳で、これは日本にとって大きな大きなメリットになりますよね。

H:確かに、「言葉が出来ないから」と臆している場合じゃないですね。アジアの市場の人みたいにがんがん行かないと。

新津:正にその通りです。そして、この大きな目標に向かって、他にも様々な施策を展開する予定です。例えば、これはもうスタートしているプロジェクトですが、ベンチャー企業と組んで、外国人旅行客向けの無料アプリを開発しました。中国版LINEと呼ばれているWeChatというアプリですが、既に4億人のスマホにダウンロードされています。このアプリを通じて、ショッピングや街歩き、それからバーゲンの情報を入手出来るんです。

H:台湾に同じようなサービスがあっていいなと思っていましたが、日本でもスタートするんですね!

新津:はい。

実は、買い物で日本にお金を落としてもらうことももちろん大切なのですが、僕自身の最終目標はもうちょっと違うところにあるんですね。例えば、大人気の日本料理を支える、海産物。その地引網漁を漁師さんと一緒に体験したり、器を作る工房でろくろを回したり。そういう“日本体験”を旅の中に取り込むツアーやキャンペーンを企画して行きたいと思っています。

料理をはじめとして、工芸品、精密機械、アニメ、縫製‥その全てに現れる日本人の技術力。僕はここに日本という国の真髄があると思うんですね。細かいところまで目が行き届き、その細部を投げ出さずに、徹底的に追求する精神。買い物やツアーを通じて、日本人のこの精神を伝えられたらいいなと思います。だって、それこそが日本のUnique Sales Pointですから。
日本人の心のバリアを崩すこと。そして、日本のUSPを世界に向かって発信すること。この二つの大きな夢を実現するために、今、一歩一歩、歩き始めたところですね。



HAPONがきっかけで生まれた39枚の絵葉書セット「39card」



“自分の姿”は自分では意外と見えないもの。“外国人観光客誘致”“おもてなし”と言うと何か特別な行事をしたり設備を整えたり、はたまたぺらぺらの英語を喋らなければいけないのではと思いがちですが、外国の方はあるがままの日本――美味しい日本料理に買い物天国!――を楽しく思うのだなと分かると、肩の力も抜けて行くようです。
その上で、より深く私たちの文化の優れた点=USPを知ってもらうためのちょっとした努力。アピール下手と言われる日本人ですが、新津さんのお話にはたくさんのヒントが詰まっているように感じました。

 さて、超多忙な新津さんですが、実はもう一つ、かわいらしい事業も行っていることを最後にご紹介したいと思います。39cardというのが、それ。
これは、39枚の絵葉書セットで、定価は2100円(記念切手貼り付け済みセットは5250円)。それぞれの葉書には一枚一枚違った印象的な写真と、「ありがとうございます」の一言がプリントされています。仕事相手に、友人に、一言感謝の思いを伝えたい時、このまま相手に渡しても良し、一言何か書き添えても良し。すべてを電子メディアで済ませてしまいがちな現代生活で、敢えて紙に文字を記して相手に届ける、という行為。39カードはそこから生まれる、小さいけれどあたたかいコミュニケーションを大切にしているようです。
 この商品のきっかけは、実は、HAPON。39cardのデザイン及び写真を担当するデザイナー・尾崎扶美さんと新津さんは、共にHAPONの会員同士。オープンエリアで会話を交わすうちに、39cardのアイディアが生まれたのだそうです。

コンサルティング事業、外国人訪問客誘致、そしてコミュニケーショングッズの開発‥と、ボーダーを感じさせない新津さんのご活躍。それはもしかしたら、各階ごとに違うカテゴリーの商品が並んで人々が自由に行き来する、“百貨店”出身だからこそ?などとも思えるのでした。
新津さん、ご多忙の中、お時間をさいて頂きありがとうございました!

(インタビュー・文 西端真矢)


HAPON人インタビュー:百貨店マンから経営コンサルタントへ。貫くのは、“ブランド独自の強み”を見つけ出す姿勢――USPジャパン(1)

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