HAPON人インタビュー:百貨店マンから経営コンサルタントへ。貫くのは、“ブランド独自の強み”を見つけ出す姿勢――USPジャパン(1)

HAPONで働く人を紹介する、「HAPON人インタビュー」。
今回、そして次回とご登場頂くのは、コンサルティング・ファーム“USPジャパン”代表、新津研一さんです。


新津さんの前身は、百貨店マン。大学卒業以来約20年間、伊勢丹で、売場作りや新規事業開発などの業務に携わって来ました。そんな新津さんが、大変に魅力的な職場である伊勢丹を敢えて飛び出し、何故起業されたのか?その目指すところは何か?2回にわたっておうかがいします。

2013年6月、HAPON新宿にてインタビュー



HAPON人インタビュー:USPジャパン(1)
『百貨店マンから経営コンサルタントへ。貫くのは、“ブランド独自の強み”を見つけ出す姿勢』

HAPON(以下、H):インタビュー前に頂いた資料で、新津さんの伊勢丹時代のキャリアを拝見したのですが、まず売り場を経験された後、労組、売場リニューアルなど売場作り関連業務、新規プロジェクト担当‥と、「これは完全に役員候補だな」という華麗なコースを歩まれていますよね。そんな百貨店マンとしての20年間で、一番の収穫とはどんなことだったのでしょうか?

新津:三越伊勢丹グループの売り上げは年間で1兆2千億円以上ありますが、それは、何かボタン一つをクリックして行うマネーゲームのようなもので達成される訳ではないんですね。もちろん高額商品もありますが、百貨店の売り上げは基本的には、シャツ1枚、パン1斤を売ること、そのことの集積として1兆円がある訳です。その尊さ。一つ一つの商品をお客様に買って頂けることの大切さを骨身にしみて理解していることが、自分の全ての基礎になっていると思いますね。


伊勢丹時代は売場作り、新規プロジェクトを担当

H:‥なるほど。それは非常にいいお話ですね。そのベースの中で、例えば天下の伊勢丹の売場作りに関わるなんて、これはもう非常にワクワクするプロジェクトだと思うのですが、具体的にはどのようなことを担当されていたのでしょうか?

新津:一言で言うと黒子の役割ですね。例えば2007年に新宿本店の食品売場、いわゆる“デパ地下”がリニューアルしたのですが、この時には、バイヤーや店舗作りの専門家たちの裏方として、予算調達や人員配置など、さまざまな社内調整業務を担当しました。このような立場にいると、リニューアルの最初から最後まで全てのプロセスに関わることになりますから、そこから得た学びは大きかったですね。
思うに、伊勢丹が、1店1店の出店店舗さんと一つ一つの商品を徹底的に検証して売場を作って行く、その姿勢は、百貨店業界随一ではないかと思うんですね。
例えば、和菓子の榮太樓さん。江戸時代から続く老舗の飴屋さんですが、リニューアル後も売場に残るためには、新しいフロアにふさわしい新しい価値を提供して頂く必要がある。リニューアル・プロジェクトが始まる時に、そういうお話し合いをしたんですね。その結果出て来たのがこの商品です。伊勢丹オリジナルの“羽一衣”という板飴なのですが‥

H:まず商品そのものが飴の常識をくつがえす薄さで、しかもパッケージまで含めてすごくスタイリッシュなデザインですよね。実際口に入れるとふわっと軽くて!“新しい飴体験”というかんじがします。

新津:そう言って頂けると大変嬉しいですね。しかしこに至るまで、榮太樓さんとバイヤーの間では、もう四苦八苦の試行錯誤があったんです。
例えば、「飴は地味だから、パッケージを今風にしましょう」、得てしてそういう考え方におちいりがちなのですが、そうじゃないでしょう、と。榮太樓さんは飴の店なのだから、飴を徹底的に追求するべきではないか。じゃあ、老舗の最高技術で作る“現代の飴”ってどういうものなのか?‥伊勢丹の考え方ってこういうことなんです。
そして、この厳しい問いかけに対する答えを、榮太樓さんと一緒になって模索する。もう、試作品を作ってはダメ、作ってはダメ、の繰り返しです。非常に難しい課題ですが、でも、こうなって来ると向こうの職人さんも本気で取り組んでくださいますから、その中から、大ヒットとなったこの飴のような商品が誕生するんですね。


”有平糖”という伝統の飴をベースにした、“羽一衣”

H:あの広大な食品売場の1店1店について、こういうことをやっている訳ですか?

新津:はい。

H:それはもう本当にものすごいプロセスですね。

新津:ええ。そしてそうやって生まれて来た商品を、最も輝いた状態でお客様の前にお出しする。もう、宝石のようにガラスケースの中に飾りましょう、と。

H:ケースの上にごちゃごちゃPOPなんか付けて並べたりしない(笑)。

新津:はい。ここまで徹底的に追求した商品であれば、もうそういうことをせず、お客様の視線を集めるためのステージだけを用意すればいい。僕が伊勢丹20年で得たもう一つの大きな収穫、学びは、正にこの一連のプロセスの中にあります。自分の一番の強みで勝負する。それに勝る戦略はないんですね。

H:なるほど。伊勢丹を退社して新津さんが創業されたUSPジャパンのUSPとは、“Unique Selling Proposition”だと資料で拝読しました。つまり正に今言われた、自分独自・ブランド独自の強み、ということですよね。この理念は、新津さんの20年間の百貨店マン人生の中から生まれて来たものなんですね。

新津:はい。伊勢丹に20年勤めて、冒頭でおっしゃって頂いたように、組織の中で大きな役割を目指すという道もあったと思います。けれどその頃、個人的な事情もあって、自分で自由に使える時間を増やしたいと最終的に退職を決断しました。そして、じゃあ、どんな仕事をするべきかと模索していた時に、20年の百貨店人生で到達したこと、Unique Selling Propositionという視点を生かして事業を起こすことが良いのではないか、と。

H:具体的には、経営コンサルティング事業ということになりますね。

新津:はい。

H:創業からこれまでの成約事例を教えて頂けますか?

新津:例えば、USPを見きわめた上でのマッチング業務があります。スマートフォン・アプリの分野で、デザイン力・企画力を持つ若いスタートアップ企業と、資金力を持つ大手を結びつける。或いは、人工衛星の開発を行っている大学研究室の依頼で、その売り先を見つけて来る、という仕事もしています。
この衛星は、NASAが打ち上げるような巨大なものではなく、もっと簡易的な衛星なんですね。価格も数千万円台と、人工衛星としては非常に廉価で、つい最近或るユニークな企業が利用してくださることになりました。


これがその簡易衛星。数千万円台という価格設定は、個人購入も夢ではない

H:これらの顧客の方々は、新津さんが百貨店時代に培った人脈がそのままお客様になったということなのでしょうか?

新津:いや、それが全く違っていまして、伊勢丹とは一切関係ありません。実は伊勢丹時代から日々あちこちで飲んでいまして(笑)、そういう中で知り合った方から色々と相談を受けていたんですね。

H:飲み会人脈ですか(笑)。

新津:はい(笑)。退職のご挨拶に回りつつご相談を聞く中で、これはひょっとして事業化出来るのではないか、と(笑)。

H:なるほど。そんなUSPジャパンでは、お仕事を受ける際に、まず長時間のインタビューを行うと謳われていますね。

新津:はい。このプロセスが何故大切かと言えば、そこでお客様のUnique Selling Propositionが見えて来るからなんですね。
例えば最近、或るゴルフ・ティーチング・プロの方のコンサルティングを担当しましたが、その方はもうとにかくやさしくて、人当たりのやわらかい方なんです。一緒にいると何だかふんわりと楽しい気持ちになって来るような、素晴らしいキャラクター。
だから、僕のご提案は、“幸せゴルフ・ティーチング・プロ”。技術的にああしてこうしてと細かく指導する“勝つためのゴルフで”はなく、前回よりちょっとだけスコアが伸びたら、いいスイングが出来たら、彼女と楽しくラウンド出来たら、ゴルフが楽しいですよね?そういう“楽しむためのゴルフ”。ゴルフをする方の目的も様々ですから、そこに特化して行きましょう、と。
このように、顧客の皆さんのUSPを一緒にお探しして、USP自体を戦略とする。こういうあり方が、僕の目指すコンサルティングですね。


しあわせレッスンプロ・太崎敬介氏。明るく根気強い指導がゴルフの楽しみを広げてくれる



実は、HAPONでは、入居している若いスタートアップ企業の創業者が、オープンエリアで真剣な表情で新津さんに相談する姿をしばしば見かけます。
伊勢丹という、最も厳しい戦場の、その最前線で、長年魅力的な売場作り・商品作りに携わって来た新津さんには、自然に人を引きつける大樹の知恵が備わっているのでしょう。
そんな新津さんのコンサルタント業務には、実は、個別の案件の他に、ライフワークと言って良い一つの大きなテーマがあります。その顧客は、ずばり、日本。一体それはどのようなプロジェクトなのか?
次回はそんなお話をうかがって行きます。
(インタビュー・文 西端真矢)

HAPON人インタビュー:訪日外国人市場1兆円をめざして――USPジャパン(2)

これまでのHAPON人インタビュー:気鋭のプロデューサーズ・カンパニー、Epiphany Works

Comments are closed.

〒160-0023 東京都新宿区西新宿7-4-4 武蔵ビル5F