HAPON人インタビュー:Epiphany Works (1) 現代アートの精神でジャンルレスにプロデュース

HAPONで働く人を紹介する、「HAPON人インタビュー」。

第1回目のゲストには、プロデューサーズ・カンパニーEpiphany Worksの林口砂里さんと信田眞宏さんをお迎えします。

現代美術ギャラリーでキャリアを積んだ後、フリーでアーティストマネジメントを手がけ、Epiphany Worksを立ち上げた林口砂里さん。そこに合流したのが、制作会社のプロデューサーとしてCM音楽、映画音楽、映像作品を手がけていた信田眞宏さん。二人のそれまでのキャリアが示す通り、Epiphany Worksの活動領域は美術、音楽、映像、写真展のプロデュース‥いや、それ以上の領域にもまたがっているようです。まずはその辺りからお話を伺ってみました。

2013年2月8日、HAPON新宿にてインタビュー



HAPON人インタビュー:Epiphany Works(1)
『現代アートの精神で、音楽から脳科学まで、ジャンルレスにプロデュースする』

HAPON(以下、H):Epiphany Worksのお仕事の中には、ダライ・ラマと共に般若心経を学ぶiPadアプリ、脳科学者がからむイベント、富山県の里山の町を新たな視点でめぐるツアーなど、異領域のものが混在していますね。でも、お二人の出発点は、美術や映像など、アートの領域。このつながりはどのように捉えたら良いのでしょう?

林口:私の原点は、80年代、留学先のロンドンで出会った現代アートなんです。当時のロンドンにはいいギャラリーがひしめき合っていて、ぐるぐる回って歩くと世界の一番新しい動きを真っ先にとらえることが出来ました。実は、ロンドンに着いた当初の私は、現代アートと言えばウォーホールくらいしか知らない普通の大学生。たまたまロンドンの大学で20世紀美術史を専攻したのですが、それがその後の人生を変えるくらい大きな衝撃になったんです。


2004年、金沢21世紀美術館開館記念展では、マイケル・リンら3名のアーティストの出品をコーディネート


H:林口さんにとって、現代アートの何がそれほど衝撃的だったのでしょう?

林口:現代アートはコンセプトを重視しますよね。そのコンセプトを通すと、世界の見え方が大きく変わってしまう。人にそういう体験をさせるアートの力にものすごく感動しました。「こんな見方をしていいんだ」と衝撃を受ける作品もたくさんあったし、それから、それぞれのアーティストがそれぞれのコンセプトを持って主張し合っている、その自由な状態そのものも面白いと思いました。

H:そこでアートを仕事にしようと決心されたのですね?

林口:はい。留学が終わって帰国した次の日に、ワタリウムに「働きたいんです」と電話をかけていました。


科学者や文化人類学者による講演とライブをミックスした2010年のイベント「宇宙とヒトをつなぐもの」


H:すごい。当時まだ一介の学生ですよね。相手にされないんじゃないかしら、などと考えませんでしたか?

林口:‥‥(わりと長い沈黙)考えないんですよね。

信田:林口は、全然そういうことを考えないんです。一緒に仕事をしていても、「え、これ受けちゃうんだ。大丈夫かな?」と思う企画を平気で「やります!」と言って来ましたから(笑)。

林口:やりたいことがあったら、とにかく手を挙げるんですよね。実現の方法はとりあえずは後回しですが、やると決まったら必死に取り組んで実現させます。幸いワタリウムからは「来なさい」と言って頂けて、そこで最も基本の修業をしました。その後、水戸現代美術館、P3(現代アートスペース)など複数のギャラリーで働いて。ところが90年代の終り頃からかな、アートがどうも面白くなくなって来たな、と感じたんですね。

H:それはどういう点にそう感じられたのでしょう?

林口:人の思考を揺り動かすような、そういう力を持った作品が減って来たな、と。ちょうどその頃結婚をしまして、新しい家庭にしっかり向き合いたいという気持ちも一方にあって、きっぱりとギャラリーを辞めてしまいました。静かな生活を送るつもりだったのですが‥

H:そうはならなかったんですね?


2008年の高木正勝コンサート


林口:はい。ちょうど同じ頃に、伊瀬聖子さんや高木正勝くんの作品と出会ったんです。高木くんはまだ大学生で、VJとして、小さなクラブで映像を流していた頃でした。でも、「本当はギャラリーでも発表してみたいんです」「海外のレーベルからCDを出さないかとオファーが来てるけど、英語だし契約が不安で」と言っていて、じゃあ、私が手伝おう、と。彼らの作品には、私が現代アートに見つけられなくなったもの、人の思考を揺らす力・当たり前の風景をちょっと違った視点で見つめさせる力、そういう力があふれていたんですよね。いつの間にか、彼らのマネジメントに駆け回る毎日を送っていました。

H:とは言うものの高木さんも伊瀬さんも、映像や音楽の作家。特に音楽は、林口さんにとってはこれまでと全く違う分野ですよね?

林口:だから最初の頃は、打ち合わせに出ても言葉が分からない(笑)。それぞれの業界に専門用語がありますから‥リクープって何だろう?なんて。

信田:その頃僕は制作会社関連のスタジオで、プロデューサーとして、オリジナルコンテンツを制作するプロジェクトを担当していました。そこへ、2002年に「高木くんていう音楽も映像もやる面白い子がいるよ」と、或る方の紹介で二人が現れたんです。あらかじめ作品は見ておいたのですが、当時はまだVHSで画質が良くなかったせいもあって、最初は正直よく分からなかった‥でも一つだけ、とても印象に残る作品がありました。NHKの「美と出会う」のオープニングために制作された「Light Song」がそれで、見る人を幸福な気持ちにさせる作品でしたね。
その後、2006年にCD「Private/Pubric」、2009年にドキュメンタリー映画「或る音楽」を共同制作して、2010年にEpiphany Worksに参加することになりました。


2010年制作、高木正勝ドキュメンタリー『或る音楽』DVDビジュアル


林口:epiphanyって、語源は、キリストが誕生した時に東方から三博士が駆けつけて「ここに神の子が生まれた」と宣言する、その出来事を指す言葉なんですよね。彼らが伝えなければ人々は、馬小屋で生まれた赤ん坊が神の子であるとは分からなかったはず。
いつも思うことなのですが、アーティストって、普通の人が言葉に出来ない・目に見えていない世界を作品にする、まさに東方三博士のような存在なんですよね。それは別の言葉で言い換えれば、“シャーマニックな存在”だと。

一方、アーティストがいくら素晴らしい作品を作っても、上手く伝えなければ世の中に全く届かないこともあります。私たちが東方三博士のように、その力を見抜き、伝えて行きたい。そんな意味を込めてつけた名前です。
高木くんや伊瀬さんは、現代アートをやっているという意識は持っていなかったけれど、まさに現代アートが目指すことを具現化していた。だから、最初の質問に戻りますが、私たちにとっては映像でも美術でも脳科学でも般若心経でも、世の中で常識とされている見方を変える力を持った作品、活動。それから、言葉では表現出来ない、根源的な力の存在を感じさせてくれる作品。それらは全てアートなんです。Epiphany Worksの手がけるプロジェクトは一見ばらばらの領域に存在しているように見えるかも知れないけれど、この視点から見れば全て一本につながっているんですよね。


2010年、原田知世ライブツアー「eyja」を企画制作



こうして軽々と異領域を横断し、現在まで精力的に活動を続けて来たEpiphany Worksは、近年、更なる異領域、地方活性化プロジェクトにも参画を始めます。
次回のインタビューでは、Epiphany Worksが何故日本の地方へと足を踏み出したのか、その底流に流れる思いとプロジェクトの軌跡についてお伺いします。ご期待下さい!
(インタビュー・文:西端真矢)

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